⿻PluralityとPlural Management Protocol
サイボウズラボ/一般社団法人未踏 西尾泰和
⿻Plurality本
"⿻ 數位 Plurality: The Future of Collaborative Technology and Democracy"
2024-03-24に英語版の原稿が完成!PDFはこちら! https://gyazo.com/849e79ba434c6ed6e748912659a1653d
なめら会議でも何度か言及されてきたが、この機会に何も知らない人向けに説明する Audrey Tang
プログラマー、オープンソースコミュニティでの活動
ケーブルを引いてブロードバンド接続、Live中継
既存メディアではなく直接の情報発信共有の手段を作った
(Audrey) 私は学生たちが立てこもる立法院内の様子をg0vのメンバーとともにネットでライブ配信して、学生たちの運動を支援しました。私たちはライブカメラで立法院の中と外をつないで、20の民間団体が人権・労務・環境問題などを話し合えるようにしました。そして、3週間で4つの要求をまとめて立法院の議長に提案しました。すると、当時の議長はその4つの要求が合理的なものであると認め、すべての要求に応えてくれたのです。 --- かつて立法院を占拠した台湾天才IT大臣が語る、自らのルーツ | ゴールドオンライン 40歳のときデジタル大臣(2022~)
Glen Weyl
日本語に翻訳されたので読んだ人も多いだろう
AudreyやVitalikと一緒に社会変革のためのNPO法人を設立
2024年1月preprint公開、出来立てホヤホヤ(今回のメインテーマ)
1:
血縁の小さな集団の中で取ってきた食料をシェアしてた
2:
人数が多くなるとうまくいかない→「統治」(rule)の仕組みが必要
服従すれば保護する、ルールに従わないなら罰する、国家、交換様式B
3:
国家権力の「ルールに従わないなら罰する」力によって私的な「契約」が可能になった
契約を破ると国家権力に報復されるので抑止力が生まれ契約が守られる
通貨、投資、市場、顔も知らない人との分業、資本主義、国家よりも広いメカニズム、交換様式C
RadicalxChangeの意味の重ね合わせ
Radical Markets→Radical Exchange
Radical x Change
RadicalなXへのChange
(Audrey) ヴィタリックさんのEthereum上で研究開発された「新たな交換様式」は、不特定多数の人が公共の利益のために交換することを可能にするものです。これは一見すると個人のための利益に見えるかもしれませんが、最終的にはコミュニティー全体の利益になるという共通認識につながります。これらはメカニズムデザインの活用方法であり、私はこれを台湾の政治にできる限り応用するようにしています。...なぜこのような交換様式をRadicalxChangeと名付け、Radical x Changeと別々の単語に分けて表示しなかったのか。それは日本の文学者であり哲学者である柄谷 行人さんが提唱している交換様式X、すなわち「交換様式論」から着想したものだからです。 協力の深さと広さのトレードオフ
Plurality本の重要概念
https://scrapbox.io/files/657fc12e986d8d0025e6dce1.png
縦軸: 協力の深さ / 横軸: 協力の広さ
左上: 家族的な親密な関係: 大勢にできない
右下: 市場を介した広い関係: 浅い
深さと広さはトレードオフの関係
技術がこのフロンティアを押し広げる(生産可能性フロンティアのメタファー)
図の community / state / comodity が 交換様式A/B/Cに対応
これが⿻Pluralityの目指す方向性
Plural Management Protocol
"⿻Plurality"の目指す方向に進むための技術は色々模索されている
Plurality本のプロジェクト自体がPMPの実験台
PMPを実装したGov4Git(GitRules)がGithubに導入されている
Golangで書かれたGithub Bot
A decentralized protocol for governing open-source communities based on git
PMPが必要な理由
階層的組織の問題: 意思決定のボトルネックが生じがち
フラットな組織の問題: 一貫した方向性で行動することが難しい
あるあるだよねnishio.icon
「みんなで協力してこのプロジェクトをやろう!」とチームを作っても、プロジェクト遂行に重要なタスクが放置されたままどうでもいいタスクが実行されたりする
プロジェクト遂行のためには、結局プロジェクトを自分ごとと捉えて「遂行に重要なタスクがこぼれた時に全部拾う人」が必要になる、これがリーダー リーダーがプロジェクト立ち上げに必須なのに、プロジェクトが立ち上がって規模が大きくなると、リーダーが意思決定のボトルネックになる リーダーがボトルネックになる 特にOSSの開発で、プロジェクトの成長に伴って、貢献の評価や優先順位付けが困難になる
共有地の悲劇が話題になる。ソースコードはほぼゼロコストで複製できるリソースだ。食い荒らされてる「限られたリソース」は何? バグレポートやプルリクエストが送られてきたとき、それがプロジェクトにとっての重要度なのかどうかの「評価」が高コスト
意思決定を分散しないと「リーダー」に負荷が集中してしまう、つまり組織作りが必要なのだが、一人でソフトウェアを書くのが得意なエンジニアが組織の編成を得意とは限らない
これを解決するためにPMPを提案する
PMPのメカニズム
主にQuadratic Voting(QV)とQuadratic Funding(QF)を組み合わせたもの
https://gyazo.com/470f14aa288673827449ebae4ac4130c
課題の優先順位設定(QF):
メンバーはクレジットを使って課題の優先順位を設定する
各メンバー$ iが$ P_iのクレジットを割り当てると、課題の優先度は
$ \left(\sum_i \sqrt{P_i}\right)^2となる。
この課題を解決した人がそのクレジットをもらう(QFの原理、後で詳述)
貢献の承認投票(QV):
提案された課題解決の貢献に対し、メンバーはクレジットを使って「採用して良いかどうか」の投票を行う
この時、$ N票投じるには$ N^2のクレジットを消費する(QVの原理)
(予測市場も組み合わされているが割愛)
貢献の報酬:
貢献が投票で承認されたら、貢献者に報酬として「優先順位設定で集まったクレジット」が支払われる
マッチングファンドから追加のボーナスが出る
貢献の承認投票に使われたクレジットはマッチングファンドに移され、新たな貢献のインセンティブになる
実例
Plurality BookプロジェクトにおけるPMPの運用状況
課題の優先順位設定
https://gyazo.com/61aabde782f7a6b0f2c227499bb382df
GithubのIssuesに対してQFして獲得ファンドの多い順に並んでいる
https://gyazo.com/0cab73c154ff746854f67426bcc662e5
Issueの"Vote"をクリックするとこんな感じになって投票できる
投票に使うクレジット
https://gyazo.com/5ba85fbc4c3794b078c091e872b36435
プロジェクトへの貢献の度合いが定量化され情報共有される
ゲームのscore board的な感じ
ゲーム内通貨でもある
https://gyazo.com/a278d132379139b4c839a15b0eb0ddf3
[^PICSY]: An early implementation of such a value-propagating system is exemplified by PICSY, pioneered by Ken Suzuki in 2009.
どこかにPICSYの話を差し込めないか考えて、Liquid Democracyのところに脚注をつけた
プロジェクトの現状
今はまだ「一人のリーダーが牽引する時期」
Glenが貢献判断をして貢献者にクレジットを新規発行してる
承認投票のプロセスはまだ体験してない
今後どうなっていくのか楽しみ
PMPは、階層型組織とフラットな組織の中間を作り、組織運営における権限と意思決定の分散化をもたらす
階層型組織との主な違い
従来のOSSだったら「コミット権限のある少数の信頼されたコミッター」と「パーミッションレスに貢献提案ができるコミット権限のない一般人」の二値だった
多くの階層型組織も「権限のある人」「それ以外」のステップ関数 PMPは貢献に基づいてクレジットが得られ、クレジットの量によって動的に管理権限が与えられる
例えばtypoを見つけてプルリクエストをすれば1000クレジットくらいもらえて投票に参加できるようになる
フラットな組織との主な違い
フラットな組織だと「何をやるべきか」「何が貢献か」を個々人がバラバラに考えがち
PMPではQFによって集合知的に課題の優先順位がつき「何をやるべきか」が決まる
PMPではQVによって集合知的に解決案の採否が決まり「何が貢献か」が決まる
PMP上でクレジットを稼ごうとする個人的利得を追う行為が、協調ゲーム的に集合知の形成につながる
メンバーの影響力が貢献と連動するメリトクラシー
プロジェクトの目的を理解して有益な貢献ができる「能力のある人」により大きな発言力が与えられる
クレジットのインセンティブで、参加と協力を促進する
従来のOSSと同様に貢献の提案はパーミッションレスに受け付けられている
僕も去年の10月くらいまでリポジトリの存在すら把握してなかった、まったくの新参者
そこから数ヶ月の活動
どうすればクレジットを得られるかIssuesを眺めて考える
できそうなことが見つかったので貢献提案してみる
受け入れられてだんだん貢献のコツがわかってきたのでもりもりと貢献した
その貢献がクレジットとして蓄積され、可視化された
最後に
これはすごく面白いことが起こりつつあると思っている
2024-03-24に英語版の原稿が完成したのでぜひ読んでみて: PDF サイボウズ式ブックスから和訳の本を出すよ、月曜に翻訳者とミーティングの予定
以下は未使用の断片
メンバーの積極的な参加と組織の戦略的な方向性を両立させるためには、貢献と影響力を動的に結びつける仕組みが不可欠だ
PMPは、階層的統治と市場的統治(みんな個人のインセンティブで好き勝手にやって結果的に分業や協力が行われるメカニズム)の間をつなぐ統治方法
Q: 市場的統治がなぜダメなのか? A: それじゃ組織いらんよね。組織の中に"市場調達できないリソース"が蓄積されて市場での分業よりも効率的な協力が可能になることに組織の存在意義がある
PMPは階層と平等のバランスを取りつつ、貢献に基づく動的な権限配分と集合知の活用により、柔軟性と適応力、戦略的な意思決定、協力的な組織文化を実現しようとするものだと言えるでしょう。組織論の新しいパラダイムとして、PMPが持つ意義は大きいと考えられます。 PMPが組織運営のパラダイムシフトをもたらす可能性
PMPは、組織運営における権限と意思決定の分散化を通じて、組織論のパラダイムシフトをもたらす可能性を秘めている
第一に、PMPは貢献と参加に基づく動的な権限配分を導入することで、伝統的な階層型組織の前提に挑戦する
地位ではなく実際のパフォーマンスに応じて影響力が決まるというメリトクラシー的な仕組み
メンバーのモチベーションと組織へのコミットメントを高める効果が期待できる
また、意思決定のボトルネックを解消し、組織の機動力と適応力を高めることにもつながるでしょう。
第二に、PMPはメンバーの集合知を活用する仕組みを提供することで、組織の意思決定の質を向上させる可能性があります。メンバーが組織の優先事項を予測し、貢献の評価に参加することで、多様な視点からのフィードバックが得られ、より適切な意思決定が可能になります。この点で、PMPは組織の学習と進化を促進するパラダイムとして注目に値します。
第三に、PMPはクレジットというインセンティブ設計を通じて、協力と公共善の創出を促す新しい組織運営のモデルを提示しています。個人の利得と組織の利益を動的に連動させるこのアプローチは、伝統的な組織論では見落とされがちだった協力の問題に光を当てるものです。PMPが示唆するのは、個人の合理性と組織の合理性をつなぐメカニズムデザインの重要性だと言えるでしょう。
もちろん、PMPにも課題や限界はあります。既存の組織文化との摩擦、メンバー間の新しい力関係、クレジット経済の安定性など、実践的な問題は残されています。しかし、階層と分散、個人と組織、競争と協力のジレンマに挑むPMPのアプローチは、組織論のパラダイムシフトにつながる新しい可能性を示していると評価できるのではないでしょうか。今後のPMPの発展と実装の積み重ねを通じて、組織運営の新しいパラダイムが切り拓かれていくことが期待されます。